INTERVIEW

「安全な水とトイレを世界中に」水を通して人と人との繋がりの場をつくる

株式会社一二三工業所
一二 健夫社長

株式会社一二三工業所 一二 健夫社長

給排水衛生設備工事を主業とする一二三工業所。3代目の一二社長は地域の方々と繋がり、喜んでいただくために「水の循環」をテーマにした様々な活動を行っている。

一二三工業の使命

水を通して「繋がりの場」をつくる

就活イベントで御社を知り、理念を大事にされている社長にぜひお話をお伺いしたいと思いました。本日はよろしくお願いします。


一二社長

ありがたいです。こちらこそよろしくお願いします。

まずはこのお仕事のやりがいについて教えていただけますか?


一二社長

経営者としては水を扱う仕事にものすごいやりがいを感じています。水って生きていく上で最低限必要なものでしょ。それを整える仕事、というやりがいはとても感じます。
例えば、うちの規模感でいくと地域住民の方に寄り添った仕事がメインになるんですね。大阪市の公立小学校は入ったことのない小学校の方が少ないくらい。だから子供達が勉強する場を支えている、という自負があります。

ほとんどの公立小学校に入っていらっしゃるとはすごいですね。同業他社もたくさんあるわけですよね?


一二社長

そうですね。その中で他社との違いを挙げるなら、うちの会社は「水を通して人と人との繋がりの場をつくっている」と言えると思います。

設備工事は行政、民間、学校、地域住民などありとあらゆるところがお客さんになる業態。そんな中、大阪南部で60年この仕事をしていると「地域の繋がり、地域の中での循環を作る使命」があるんじゃないかと思うわけです。
水が循環するのと一緒で、自分たちの仕事を通じてお金や情報、人、いろんなものが循環する会社であればいいなと思って、この2、3年は特に地域と繋がる取り組みに力を入れています。

テーマが決まるとワクワクできる

もう少し具体的に伺いたいのですが、何か活動の中心となるテーマのようなものがあるんですか?


一二社長

目指しているのは「安全な水とトイレを世界中に」。ただ工事をして水が出るようにするというのではなく「誰もが使えるような、循環を考える設備会社になろう」という方向。

いま勉強しているのは、雨水をトイレの流し水などに利用する仕組みづくり。これはもちろん節水にもなるし、非常用水にもなる。

もうひとつは途上国の水支援をしているNPOとの連携です。売り上げの一部を寄付し、活動も応援しています。そういう活動も地域に伝えたくて、配管のワークショップをしたり、パイプを使ったパズルゲームで子供達に遊びを通して伝えたりしています。

なるほど。


一二社長

商売じゃない繋がりをつくって結果的に水の啓発につなげる、という取り組みですね。「チャレンジ123」として、営業利益の12.3%を社会循環費用として計上しています。

すごいですね。社長がそこまでされる理由はどこにあるんでしょうか?


一二社長

根っこにあるのは「水の循環を作る会社をつくりたい」という想いです。やりたいテーマが「水の循環」と決まったから、いまは何をしていても楽しいんです。やりがいをもってワクワクしながらやっています。

人に貢献する喜び

会社の原点

そういった活動は、他社との差別化のためという意図も大きいですか?


一二社長

差別化もそうですが、人に貢献する喜びや楽しさを知ってしまったからやめられない、という感じです。それによって結果的に「設備工事をお願いするなら一二三工業所で」と思っていただけたらいいですね。あとは、自分の会社の原点・源流とも繋がっているように思います。

創業のきっかけや想いがそこにあったと?


一二社長

そうですね。もともと祖父がこの仕事をはじめたのも、世の中の平和にいちばん必要なのは水だと考えたからです。最初は汗をかきながら自転車で地域を回っていたそうです。

祖父はもともと旧内務省の土木工事事務所に勤めていました。在籍していたのは鳥取出張所ですが、広島の事務所が原爆ドームのワンフロアにあった。半分くらいの方が殉職されたそうです。

1ヶ月もしない内に各出張所から応援が集まって復興にあたったそうで、祖父もそのひとりでした。そこから独立した経緯があるんです。だからパールハーバーの12月8日が創業日。法人設立は8月6日です。

それを知ったときに「そうか、そういう想いではじまって、そういうDNAがある会社なんだ。堂々とそれをやらなきゃだめだな」と思ったんです。
だからね、地域に喜んでもらうことをすると細胞が喜んでいる気がするんですよ。

取り組み例:「吸殻アーティスト」

社長はほかにも面白い活動をたくさんされていますよね?


一二社長

僕いま「ポイ捨て吸殻アーティスト」っていうのをやっていて、仲間がたくさんできたんですよ。

吸殻アーティストですか?


一二社長

そう。海洋プラスチックゴミの問題を考えたときに、海のゴミは街から来るわけで、その街のゴミを減らしたいと思ったんです。それでこのあたりを毎日掃除しているんです。でも僕だけが掃除をしたくらいでは変わらない。もっと爆発的にゴミを捨てない文化に戻らないと、と思ったわけです。

それで、どうやったら広まるかなと考えたときに、人は楽しいことじゃないと共感しない、だから楽しいことをやろう!と。

それで吸殻アーティストになったわけですね。


一二社長

そう。2020年には「世界ポイ捨て吸殻アート協会」を世界50カ国に広げよう、と決めています(笑)。

取り組み例:「自伐型林業」

すごいですね。そういう取り組みはどうやって広めているんですか?


一二社長

いまはFacebookだけなので、これからですね。あと、水の源流は森林だから、森林を守るために林業にも挑戦しようかなと。

林業まで!?


一二社長

自伐型林業です。現行の林業は高額な初期投資で大規模にやろうとしているので、衰退産業の代名詞となっています。続かないし、木の値段も上がってしまうんですね。

自伐型林業というのは小さい設備ではじめられる家族経営レベルの小規模林業です。低コスト・低投資でスタートできて、自分たちの収入とするには十分稼ぐことができます。長期的な森林経営を展開できる。

土木工事の設備業者さんはこれに必要な設備をもともと持っています。この人たちが林業を兼業したらすごいモデルだなと。

なるほど。


一二社長

僕としてはかなり期待度の高い取り組みなんです。

3代目の「理念づくり」

社員の変化

社内に向けた取り組みについてもお伺いしたいのですが、先代から社長に代わられて、何か変えたことなどはありますか?


一二社長

基本的にはあまり変えてないですね。ワンマンなところもありましたが、やってきたことは凄いです。社員をとても大切にしていました。社員の家族全員の誕生日をメモして、それをある程度覚えていたりね。いまの経営理念「喜んでいただくこと」も先代が言っていたことです。

経営理念を掲げたり、唱和をはじめたのは僕の代になってからです。

30代前半で社長に就任されたとのこと。会社を長く支えてきた従業員の方もいらっしゃる中でご苦労もあったのではないですか?


一二社長

そうですね、みんなも困ったと思います。よくある後継者失敗もやりました(笑)。

それでいまは「仕事はみんなの方が知っているから任せよう、会社の方向性や守らなければいけない部分は僕がしっかりと決めていこう」と。いちばんは社員を大切にすること。これは少しずつ伝わり出したかなと思います。

理念を掲げ直されたのはなぜですか?


一二社長

僕自身サラリーマン時代、何のために働いているのか分からなくなったことがあって、そういうのが必要だなと。

掲げてみて変わった実感は?


一二社長

ありますよ。半年くらい経った頃、課長が言ったんです。「多少の損失はあってもお客様のことを考えて動くようになった。それまでは会社にメリットがある方を選んでいたけど、理念が頭をよぎるんです」と。

キーワードのように「お客様に喜んでもらうこと」と言ってきたのが浸透してきた。

僕も自分がはじめた部活で理念を掲げましたが、広まってないと感じつつの引退になってしまいました。広めるための工夫ってあるんでしょうか?


一二社長

それは勝手に染み込んでいくものです。僕自身がその理念に応じた言動をし続け、口に出していけばだんだんみんなもそうなっていく。1年で同じ方向を向いてくれる人もいれば5年10年必要な人もいる。新卒の方が吸収は早いです。

経営理念が歩いていると思われるくらいにならないとダメって言いますよね。

理念はおひとりで考えられたんですか?


一二社長

1人で会社にあるもの、社員や先代社長に聞くなどして掘り起こして成文化しました。2年ほど専務をしていましたが、その間ずっと考えていました。書いては消し、書いては消し。だいぶ勉強もしました。

経営者として

社長は人生で影響を受けた人がいますか?


一二社長

たくさんいますよ。自分の良いところ、悪いところを指摘してくれた小学校の先生とかね。その頃言われたことはずっと残っています。

いま経営を学ばせてもらっている方もそうですね、持続可能な世の中づくりに真剣に取り組まれていてすごくいい影響を受けています。

こういう人になりたいな、という人は?


一二社長

ロールモデルは吉田松蔭先生かな。弟子を怒らずいいところを伸ばし、死ぬ時も穏やかに、というところ。そういう人になりたいです。

なぜこれを聞きたかったかというと、僕自身あまりこの人みたいになりたいな、と思わないタイプだからなんです。


一二社長

それは出会った人の数が少ないからですよ!まだ若いし社会に出ていないからそういう人に出会えていない、本当にそれだけだと思います。
これからいろんな人に出会って「この人のようになりたいな」と思う人が出てくるんじゃないかと思います。

ありがとうございます。
次の質問ですが、経営者として日常的に意識していることはありますか?


一二社長

自分軸と相手軸の意識です。相手中心に考えるのを癖づけるようにしています。ついつい自分軸で考えてしまうので。

自分軸になっているなと気付くのは人に指摘されたときですか?


一二社長

指摘されたときもそうだし、ふと自分で気付くときもあります。「喜んでいただくこと」という経営理念なのに自分が喜ぶことをしてたらダメですよね。

これからの課題

最後に、現状の課題をお伺いしたいです。


一二社長

いま世界では安全な水を飲めない人が8億人、きれいなトイレを使えない人が23億人いると言われています。不衛生な環境で1分に1人が命を落としている。それに比べたら自社の課題なんてとても小さい。なんとかなるだろうと思っています。

うちはいま微々たる寄付をしたり、「ウォーターエイドジャパン」を知ってもらうための取り組みをしていますが、そういう意味では「僕らは飲める水道水を無駄にしている」というのは課題ですよね。

自分たちの当たり前がみんなの当たり前じゃない。じゃあ何ができるのか。これをやってみよう。やってみたら誰かが喜んでくれたり自分が喜べたり。そして次の1歩のエネルギーになる。

賛同してくれる人がいて加速する。そういった感覚をいま味わっています。

世界の課題に目を向けられているんですね。


一二社長

専務になって帰ってきたときは、世の中より自社の小さな問題ばかり気にしていました。

それがある日、水のことを考えていて思ったんです。世の中こんな大変なことになっているのに自分はなんて小さなことに悩んでいるんだ、これじゃあ会社も上手くいくはずがない、と。そう思うようになって好転していきました。

これからどうやって持続可能な世の中をつくっていくか。それを考えらえる会社こそが生き残る会社になっていくと思います。

なるほど。これまで疑問に思っていた社会貢献活動をする理由がなんとなくですが分かったような気がします。とても勉強になりました。ありがとうございました。

インタビュアー

森 さん(大阪経済大学 4年)